概要 |
前職のコンサルタントの駆け出しの頃は、私の指導力不足で現場社員が辞めてしまったり、うまくいかない現場改善プロジェクトや失敗の方が多かったことを記憶しています。 救いだったのは、自ら営業でコツコツ歩き回ったことによりご縁ができ、つながったお客様が私を支援してくださったことです。特に、2代目、3代目の運送・物流企業の、私と年齢の近い団塊ジュニア世代の経営者の皆さまから「一緒に、うちの会社を人が定着する良い会社にしていこう!」と言ってくださる方にたくさん出会えたことです。 そんな経営者の熱い思いに突き動かされて運送・物流現場の人財育成に取り組んできました。 そこで私は、どうやって人が定着する良い会社を作ればよいのか? と前職のコンサルタント時代の10年間、実地で学び、徹底して調べ、考え続けてきました。教育理念や指導方法を考えるに当たって、多くの方々の書籍を読みあさり、他社の先生のセミナーにも参加し、自分なりに研究しました。 その結果として、現場で働く仲間の「人となり」や「人間性」をまず知らなければ教育・指導などできないことに気付かされました。人は、子供のころからの原体験(行動や生き方に強い影響を与えた経験)があって、歩んできた道がそれぞれ違うのです。育った環境や影響を受けた人も様々です。 残念なことに、親に虐待を受けて育った人もいます。私が働いていた現場では、腕にリストカットの跡がたくさんある子もいました。親の会社の破たんで、中学を出てからすぐに働きだした子もいました。 運送・物流業の現場では、家庭環境や教育に恵まれずにきた方が多いのも実情です。 でも、そんな物流現場で働く仲間の実態を調査したデータなどどこにも見当たらなかったのです。 「それなら、 自分で調べてみよう」。まずは、ご縁のあった指導先の運送・物流現場に入り込んで調べることにしました。研修の時だけでなく、その打ち上げの懇親会や運動会などインフォーマルな場にも積極的に参加し、今の運送・物流現場で人財が定着できるカギを探し出すことにしました。 そこで、現場の第一線で働く仲間の本音を把握しないと現場の改善も進まず、離職率が上がっていくことに気付きました。ある物流現場では、管理者が圧力を掛けて、ものが言えない状態になっていました。 どこかでその不満があふれ出し、SNS(交流サイト)で悪口を書き込んだり、ハラスメントが現場で発生したり、大量退職の元になっていました。 何が現場の真の問題なのかを洗い出して意見を集めることが、人が定着する働きやすい組織風土をつくる第一歩です。そこで、現場で働く仲間の本音を把握するために、現場で働く仲間に「3つの質問」を聞いて回りました。 その3つの質問とは、「どうして運送・物流の仕事を選んだのか」「なぜ今の仕事を続けているのか」「今の仕事を続けていきたいか」です。その結果として、運送・物流業界の実態や定着のための具体策が見えてきました。 1つ目の「どうして運送・物流の仕事を選んだのか」では、後ろ向きな回答として「とりあえず高校・専門学校を卒業、または中退して何となく、運送・物流業を選択した」「大学を卒業する時に、就職氷河期、超氷河期で何十社も応募したが、ほとんど全て落ち、仕方なく運送・物流業に就職した」「自分のやりたい仕事で採用されず、転職を2回、3回と重ねるうち、気付いたら運送・物流の現場で働いていた」などが出ました。 前向きな理由としては、「コミュニケーション能力が低いので、コツコツ物を運んだりする仕事が自分には合っていると思った」「車が好きだから」「体を動かす仕事が好きだから」「地元の物流センターで家からも近かったから」「バイクが好きだから」「満員電車が嫌いだから」「バイクで通える今の会社が良い」etc・・・。 2つ目の「なぜ今の仕事を続けているのか」では、後ろ向きな回答として、「転職するスキルも自信もない」「休みが取れず、転職活動する時間が取れない」「生活できる給料をもらえ、社長は気遣いができ、職場の雰囲気が良いから」「40歳を超えたから諦めている」「親の介護があり、時間的に融通が利く」「シングルマザーで、ほかでなかなか雇ってもらえない」「心を病んでいたことがあり、他でやっていく自信が無い」など、 前向きな回答として、「現場のリーダーが仕事を丁寧に教えてくれて、仕事にやりがいを感じている」「物流の現場で働く仲間と仲が良い」「資格や昇給制度などがしっかりしているので長く勤めたい」etc…。 3つ目の「今の仕事を続けていきたいか」では、後ろ向きな回答として「何も考えていない」「できたら、給料と待遇のもっと良い会社に転職したい」「給料が少なくなっても良いから連休を取れる会社に転職したい」「親の介護などがあり、将来続けていけるか分からない」「生活が不規則なので、家庭や子供のことを考えると、休みが定期的に取れる仕事に変えたい」「転勤が多く今後が不安だから転職したい」。 前向きな回答として、「社長が変わり、会社の雰囲気が変わってきたので長く勤めたい」「今の仕事に慣れていて人間関係も含めてコミュニケーションが取れているので続けていきたい」「福利厚生などしっかりしているので、この会社で出世したい」etc…。 たった、3つの質問ですが、現場で働く人の「人生の課題」「人となり」「会社に対する本音」が見えてきたのです。 |
物流ニッポン 2019年7月5日掲載 「人財」育成の現場から ㊥ |
物流人財育成のの進め方
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