物流ニッポン 連載記事「人財育成・定着◆実践セミナー⑲ 防げ!ヒューマンエラー ~「起こさない」仕組みを~ |
人の能力によって支えられている物流現場にとって、“ヒューマンエラー”は大敵です。 最近の物流現場がいかにシステム化・自動化されているとはいえ、 すべてにおいて人に変わることはできません。物流現場で発生するミスやエラー、 あるいはちょっとした失敗は、出荷精度や物流品質に大きく影響するため、 根本からミス発生の元を断つ取り組みが不可欠と考えます。そこで今回より、 特に人間の行動心理や行動特性から、“ヒューマンエラー対策”について解説していきたいと思います。 ■人は誰でもミスを犯すもの ひと口にミスやヒューマンエラーといっても、いろいろな種類に分類されます。 以下に、その主な3つの例をあげます。 第1は、「使命の取り違い」があります。 これは本来の目的ではないことをしてしまうエラーで、 あらかじめ設定された目標や守るべきルールが守られていない状況で発生します。 たとえば、本来は商品の安全を優先することが使命であるはずなのに、 出荷時間を優先したがために商品の取り扱いが乱暴になり、 商品を破損、汚損させてしまうようなケースです。 第2は、「思い込みエラー」です。本人の勝手な思い込みにより ミスを起こすケースで、状況の判断に対して、 自分なりの独自の解釈をしてしまうことでエラーが発生します。 あるいは、“勘違い”もあるでしょう。いったん思い込んでしまうと、 それが間違っていることに気がつくのが難しくなり、 他者からの指摘やミスの発生によって自分が間違って 思い込んでいたことにはじめて気づくことがあります。 第3は、「うっかりミス」です。このミスは少々複雑で、 何か他のことを考えていて、ついうっかりやるべきことを忘れてしまった、 手を抜いてしまった(省略ミス)。 何となくやらなくてもよいこと、やってはいけないことを ついやってしまった(実行エラー)。 本来は100までやらなければならないところを、 なぜか80で終わらせてしまった(達成ミス)等があります。 いつもはきちんとできているのに、 この日に限ってなぜ“うっかり”が生じたのか、 本人自身が認識できていないケースも多く見受けられます。 「生まれてこの方、自分は一度もミスをしたことがない」 と胸を張っていえる人は誰一人としていませんし、以上の分類からも、誰でもミス やエラーを起こす可能性はあるということが分かります。 そしてもう一つ大事なことは、ヒューマンエラーを100% なくすことは不可能という点です。ポイントとなるのは、 「人は誰でもミスをおかすもの」という前提に立ち、 人によるミスやエラーをいかに少なくし、 さらに事故や大きなトラブルに結びつかないようにしていくかが、 ヒューマンエラー対策の基本的な考え方になります。 ■環境の変化でミスの発生率は変わる! ヒューマンエラー対策の考え方について、古くから用いられている 「ハインリッヒの法則」をもとに考えてみます。 これはご存知の方も多いと思いますが、一件の大きな事故・災害の裏には、 29件の軽微な事故や災害があり、そして300件のヒヤリ・ハット (事故には至らなかったもののヒヤリとした、ハッとした事例)が あるとする統計に基づく考え方です。このことから、 重大災害の防止のためには、事故や災害の発生が予測された ヒヤリ・ハットの段階で対処していくことが必要であると説明されています。 ではなぜ、ひとは失敗したり、ヒヤリ・ハットしたりするのでしょうか。 失敗の原因は、大きく分けて「本人」「状況」の2つに求められます。 同じ失敗を何度も繰り返す人は、本人の意識のあり方に問題があるといえるかも知れません。 しかし大抵の人は、たとえ同じシーンでも、先に見たような“つい、 うっかり”といったことが稀にしか起こらないことが多いものです。 あるいは、失敗をおかしやすい人が、ずっとそうだとは限りません。 このようなことから、人は職場や生活の環境、その時の状況によって、 失敗をおかす確率が変わってくるのではないかと考えられます。 つまり、失敗は本人の注意力だけでは防げないことが多いのです。 したがって、ヒューマンエラーを少しでもなくし、 事故やトラブルに発展させないようにするには、 職場の仕組み・環境づくりが不可欠といえるでしょう。 職場の皆さんによるヒヤリ・ハット情報の収集は、 仕組み・環境づくりの一手法です。ヒヤリ・ハットがどこでどのような形で起っているか、 調査・分類によりその実態を把握することで、注意を喚起すると共に、 どこにターゲットを絞って改善に取り組むべきか明確にすることができます。
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